【第51回】最速ヒットを統計学から見るビッグデータの錯誤
POINT
『最新バズワード』
『8倍の航空機事故の真相は?』
『川越達也シェフのサジェスチョン』
『天気予報と最新ヒット』
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■最新バズワード
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ECはもちろん、ネットはデータだらけの世界です。インターネットはサーバ(コンピュータ)の集合体で、すべての行動が記録されています。AというサーバからBへ移動するときには、両者の間で本人確認が行われており、これがログとして残されます。リアルの店舗に設置された来店センサーで分かるのは人数だけで、年齢や性別はレジの会計時に店員が判断し入力しますが、ここから分かるのは「購入者」のデータだけです。ネットでは「未購入者」のデータも拾っています。
こうして集めた膨大なデータを解析することで、細かな消費行動を把握し、売上増加につなげようとするブームが「ビッグデータ」です。ブームです。バズワードです。しばらくもせずに、別の言葉に置き換えられているでしょう。統計学を少しでも学んだ人なら常識です。分母が増えることにより増大するコストと、充分以上のデータにより補正される誤差のメリットが釣り合わないからです。データ処理の速度や端末のコストが下がったことで「ビッグデータ」が可能となったというのは論理のすり替えです。下がったコスト以上に、収集するデータ量が増えれば同じことですし、ビッグデータを本当に利用するためには、データが発するメッセージを見抜き、あるいはその公式や方程式を創り出す専門技術者の育成が不可欠だからです。人材育成コストは経営者の究極のテーマでありジレンマです。
今回はビッグデータの錯誤と、ECへ活かす視点について。
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■8倍の航空機事故の真相は?
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某コンビニが歴代最速で新商品をヒットさせるのにビッグデータを活用したとされます。発売初日のわずかな数値の変化を見つけて、販促をかけた成果と経済番組が持ち上げます。しかしビッグデータの手柄かと言えば疑問が残ります。わずかな数値の変化を見つけた、そのノウハウがヒットを生んだ核心であり、データの多さよりも、集めたデータのどの部分に着目するかが統計学における重要なポイントだからです。
先進国の飛行機と、発展途上国の飛行機事故はどちらが多いか。統計学による試行錯誤を描いた『ヤバい統計学(阪急コミュニケーションズ)』では、同じ航路を運航する国際便において両者に差は無いと結論づけます。語弊を避けるために航空会社は明記しませんが、発展途上国の飛行機が大西洋側の米国沖で墜落事故に遭い、発展途上国の飛行機を敬遠する米国国内の動きを統計学から無意味な行動だと解き明かしたものです。発展途上国の飛行機会社の事故率は、米国の8倍にのぼることが理由です。しかし、これは「平均」の話し。平均に目を向けるのは統計学として正しくないアプローチだと指摘します。
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■川越達也シェフのサジェスチョン
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平均とは抽象的な概念で、事実を映しだすわけではありません。発展途上国の航空会社の事故は、彼らの国内線で多発していました。つまり、競合路線での事故率を比較すると、両者に違いは見つからなかったのです。ビジネス視点でみれば当たり前の話しです。他の選択肢があるなかで、事故が8倍も多い航空会社が利用されるわけがありません。
通販において何を意味するか。「平均」の過誤です。平均はざっくりとした全体像を掴むには役立っても、実戦において重大な過ちを犯す可能性があるのです。発展途上国の事故率が高いのは、国内便と国際便の「平均」であって、競合する国際便だけにフォーカスすれば、むしろ事故率が低いデータもあるぐらいです。つぎより「裏マニュアル」の部分。語弊を怖れません。
「金持ちとそうでない客の購買行動は異なる」
川越達也シェフの「年収300万円」発言が物議を醸しています。ニュースサイト『サイゾー』のインタビューに答えたもので、全文を読めばそれほど批判されるような内容ではありません。行間に私憤も見えますが、高級店には見合う客がいるという主張です。
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■天気予報と最新ヒット
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川越シェフの主張を意訳すると「努力を評価するお客様もいれば、金額しか見ない客もいる」。前者は金持ち、後者はそうでない人々。どちらの客を見て商売をするかということです。すべての業種に通じることで、わたしも希に、ホームページ制作でこう依頼されます。「タダでやってよ」。それにわたしは答えます。「ご自分でどうぞ」。
データはどこを見るかということです。ビッグデータのようにすべてを見ようとすると平均の罠にはまります。
ビッグデータが期待される分野もあります。最たるものが「天気予報」です。例えば平均気温。1872年(明治5年)に函館で観測が始まり、分母は最大でも141年です。通販に置き換えれば141人目までの売上の平均値から、142人目の客の売上を予想しているのが平均気温です。目安にはなっても、精度はそれほど期待できません。そこで過去のデータに加えて、地球上すべてのリアルタイムのデータを統合した「ビッグデータ」により、不足を補おうとしているのです。
最後に某コンビニの成功例にはカラクリがあります。売れそうだと仮説を立てると、全店舗に仕入れを促し、レジ周辺の陳列にも注力しました。いわば企業内ごり押し、組織的動員があったのです。そしてもうひとつ、こちらの方が裏マニュアルかもしれません。企業の成功例とは成功したときだけ語るものです。失敗したら闇のなかへ。何ごともなかったように葬ります。
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